当研究室では、超高速時間分解発光分光の手法を用いた一次元電子系の励起状態に関する系統的な研究を行っている。発光の時間分解分光は格子緩和ダイナミクスを直接観測できるという点で、電子格子相互作用の大きい系で非常に有効な手法である。
一次元ハロゲン架橋白金錯体においては自己束縛励起子の振動を波束の運動として捕らえることに成功したが(超高速時間分解発光分光による波束ムービー参照)、本研究ではそれと対照的な物質である一次元ハロゲン架橋ニッケル錯体の時間分解発光の結果を紹介する。
左の図は一次元臭素架橋ニッケル錯体の時間分解発光スペクトルである。これを見ると約2ピコ秒かけて発光ピークが低エネルギー方向へシフトしているのがわかる。この現象は寿命と発光エネルギーの異なる二つの状態に起因すると解釈している。
また、右の図は定常発光測定で得られた発光スペクトルと、時間分解発光分光で得たれたピコ秒領域の発光スペクトルを比較したものである。これを見ると、ピコ秒領域ではスペクトル幅が広く低エネルギー側にピークを持つ発光成分が支配的であることがわかる。この結果は電子格子相互作用が小さいと考えられてきたニッケル錯体においてもその値が大きく、特に励起状態において重要な役割を果たしていることを明らかにした。