発光は固体中の励起状態や、そこからの緩和に関する情報などを与えてくれる。発光を時間分解して測定すれば、スペクトル形状から短寿命の中間体を特定したり、強度の時間変化から励起状態の寿命やダイナミクスを研究することができる。我々は、フェムト秒のレーザーパルスを利用した上方変換(up-conversion)という手法で測定を行っている。当研究室では、様々な技術的な改良を行って40fsという発光では世界最高の時間分解能を達成し、また極低温(4K)から室温までの温度領域での測定を可能にした。高感度測定には再生増幅器からの強力なパルスを用い、幅広い物質群への適用に対応している。
以上の特徴を生かした様々な研究を行っているが、その成果の一つとして波束の振動の実時間観測について簡単に説明する。数10fsから数100fsという時間領域は固体中の原子の振動周期に相当する。断熱ポテンシャル上を運動する原子について、その位置が発光波長、波動関数の振幅の2乗が発光強度に反映されることを利用し、原子波束がどのような形で実時間上を運動するのかを捉えることに成功した。これは形状も含めた原子波束の運動を捉えた世界初の「波束映画」と言えるものである。
測定結果 | 実験光学系 |
Pt-Brの波束振動; 縦軸の発光エネルギーは波束の位置に対応しており、波束が約300fs周期の振動をしている様子がわかる。図中の色が赤いほど発光強度は強く、青に向かうほど弱くなる(凡例のグラデーションバー参照)。 |
世界最高の時間分解能を得るために様々な工夫がなされている。 |
世界初、核波束のアニメーション(左 実験結果、右 シュミレーション)。 フェムト秒ステップによる世界最高速アニメーション。〜100fs周期で核波束が振動している様子。 |