Research
本研究室ではレーザーに基づく新しい分光計測法を開発するとともに、 それを用いて固体における電子状態、局所構造、電子格子相互作用およびその超高速ダイナミクスの研究を行っている。特に「波束ダイナミクス」 「光誘起相転移」 「テラヘルツ分光」に注目している。
研究紹介
- 1. 超高速時間分解発光による波束ムービーの作成
- 試料からの発光とゲート光レーザーパルスとの和周波をとることにより,超高速の時間分解測定が実現できる(時間分解能40fsec).この装置を用いて,擬1次元白金錯体Pt-Br系において,励起子の局在化に伴って励起される局在格子振動を発光強度の変動として実時間上で捉え,波束の2次元運動や分裂現象のムービー作成に成功した(図1(a)).断熱ポテンシャル面上を滑り降りた波束が障壁の頂上(b)付近で二つに分裂する様子が,「出島」のような形で観測されている((a)の白い矢印)(Phys. Rev. B 81, 081102(2010)) .
図1 フェムト秒発光で見た波束の分裂現象(Pt-Br錯体) - 2. テラヘルツ時間領域分光法によるスピン共鳴の観測と制御
- 従来強力な光源の得られなかったTHz(1012 Hz)領域でのフェムト秒光源が近年開発されて,遠赤外光を電場波形として記録することが可能になった. THz波の磁場成分をパルス磁場として用いて,スピンの歳差運動をコヒーレントに励起することができる(図2(a)).図2(b)は単結晶YFeO3におけるスピン歳差運動をTHz分光法で観察したもので,歳差運動は振動波形として観測される.さらにTHzダブルパルスの間隔を調整することにより,スピンの歳差運動を増幅したり停止させたりという制御も可能であることを示した(図2(b)の下2つの波形).(Phys. Rev. Lett. 105, 237201 (2010)).
図2 THz分光法を利用したスピン歳差運動の励起と制御 - 3. ラマン分光と赤外時間分解分光による光誘起相転移の研究
- ある種の物質では光励起によって相転移を起こさせることができる.その転移がどのような速さで起こるか,新しい相のドメインが空間的にどのような発展をするかに注目が集まっている.図3(a)に,シアノ架橋錯体(RbMnFe系)の磁化率の温度変化を示す.12K以下の低温で強磁性を示すが,緑色の光(532 nm)を照射すると自発磁化のない状態に転移し,400nmの紫外光を照射すると元にもどる.金属イオンを連結しているCN分子(c)の振動をラマン,赤外分光によって測定することにより,そこが低温相であるか,高温相であるか,またはドメインの境界に位置するかがわかる(J. Chem. Phys. 131, 154505-1-9 (2009)).
現在は時間分解赤外分光により,ドメインの成長過程などを研究している.
図3 光によって磁性が変化する「シアノ架橋錯体」 - 4. 時間分解軟X線干渉計の開発
- 波長が可視光の1/40(13.9 nm)の軟X線レーザー(原子力研究機構)を用いて固体表面からの反射光の干渉を測定すると,高さ1 nm程度の非常に小さい起伏を観察することができる.さらに,パルス性を利用して表面形状のピコ秒スナップショットが取得できる.図4の(a)(b)は白金薄膜をレーザーアブレーションしたときの表面膨張である.干渉縞が曲がっていることから,50psにおいて10数nm膨らんでいることがわかる.このような手法を用いると,アブレーションだけでなく,光誘起相転移にともなう表面形状の変化が10ps以下の時間分解能で測定できると期待される.(Opt. Exp. 18, 14114-14122 (2010)).
図4 時間分解軟X線干渉計によって測定したレーザーアブレーションの過程と軟X線レーザーによって研究できる現象.
2009年度物性研一般公開展示(一般の方向け、超高速発光&テラヘルツ)
Previous Themes
- 超高速時間分解発光分光による波束ムービー
- 時間分解ラマン散乱法による高温超電導体の研究
- 擬一次元系における超高速格子緩和
- テラヘルツ波ポンププローブ分光による光誘起相転移の観測
- アルカリハライドFセンターにおける核波束ダイナミクス
- コヒーレント励起分光法による磁気励起
- SiCにおけるキャリアーダイナミクス
- ガラス系物質におけるホールバーニング分光
- テラヘルツ波の発生メカニズム
- Germaniumにおける時間分解電子ラマン
修士論文・博士論文
2013年度 | ||
博士 | Ultrafsat spin dynamics induced by pulsed terahertz wave in canted antiferromagnet (傾角反響磁性体におけるテラヘルツ波パルス誘起超高速スピンダイナミクスの研究) | 山口 啓太 |
修士 | 低次元炭素系物質における超高速光励起キャリアダイナミクス | 川崎 智裕 |
修士 | 高強度テラヘルツ波照射下における半導体の電気伝導特性 | 橋本 未知也 |
2012年度 | ||
修士 | RbMnFeシアノ架橋金属錯体における光誘起相転移のドメイン成長ダイナミクス | 石毛 俊 |
修士 | テラヘルツ近接場計測の磁性体への適用 | 栗原 貴之 |
2011年度 | ||
修士 | グラファイトおよびナローギャップ半導体における超高速光励起キャリアダイナミクス | 榊 茂之 |
2010年度 | ||
修士 | ポンププローブ軟X線干渉計の開発とアブレーションダイナミクスへの応用 | 寺川 康太 |
修士 | RbMnFeシアノ錯体における光誘起相転移の時間分解振動分光による研究 | 浅原 彰文 |
修士 | テラヘルツ波パルスの磁場成分を用いた弱強磁性体における磁気共鳴の観測と制御 | 山口 啓太 |
2009年度 | ||
博士 | Photoinduced charge-transfer process in cyano-bridged metal complexes studied by Raman Spectroscopy | 深谷 亮 |
修士 | 梯子型白金錯体における励起子の超高速発光分光による研究 | 中尾 広行 |
修士 | チトクロムcにおける励起状態の時間分解発光分光による研究 | 海老原 英明 |
2007年度 | ||
博士 | Dynamics of nuclear wave packets at the F center in alkali halides | 小山 剛史 |
修士 | 超高速時間分解赤外分光法による光誘起相転移の研究 | 大木 賢治 |
修士 | ヘムタンパク質における励起状態のフェムト秒時間分解発光による研究 | 石原 孝容 |
2006年度 | ||
博士 | 一次元ハロゲン架橋遷移金属錯体における格子緩和状態の超高速ダイナミクス | 高橋 陽太郎 |
博士 | Dynamics of the nuclear wavepackets in quasi-one-dimensional halogen-bridged platinum complexes | 安川 敬三 |
修士 | マルチチャンネル過渡吸収分光装置の開発と光誘起磁性物質への応用 | 畔上 兼一 |
修士 | テラヘルツポンププローブ分光法の開発と光励起状態ダイナミクスの研究 | 関 敬司 |
2005年度 | ||
修士 | α-NaV2O5における光誘起現象の超高速分光法による研究 | 長瀬 寛和 |
2004年度 | ||
修士 | NaV2O5における光励起現象の時間分解ラマン分光法による研究 | 鹿住 健司 |
修士 | F中心における波束振動の実時間観測 | 小山 剛史 |
2003年度 | ||
修士 | フェムト秒パルス光励起による半導体表面からのテラヘルツ波放射に関する研究 | 小田 祐司 |
修士 | 2次元スピン梯子系物質NaV2O5における光誘起ダイナミクスの研究 | 相葉 基夫 |
修士 | 一次元ハロゲン化架橋ニッケル錯体における励起状態の発光による研究 | 高橋 陽太郎 |
2002年度 | ||
修士 | 光カー効果を用いた超高速時間分解発光測定システムの開発と特性評価 | 山根 毅 |
修士 | NaV2O5におけるコヒーレント磁気励起の観測 | 山口 悟史 |
修士 | マルチチャンネルInSb検出器を用いた中赤外発光測定系の開発 | 松岡 平 |
修士 | 擬一次元ハロゲン架橋白金錯体の自己束縛励起子における波束振動の実時間観測 | 根本 益太郎 |
2001年度 | ||
博士 | 高温超伝導体の共鳴および時間分解ラマン散乱による研究 | Lina Machtoub |
博士 | SiCにおける電子・格子系の分光学的手法による研究 | 富田 卓朗 |
2000年度 | ||
博士 | 擬一次元ハロゲン架橋白金錯体における励起子の超高速緩和過程 | 冨本 慎一 |
博士 | コヒーレント励起によるフェムト秒領域での素励起緩和過程の研究 | 上岡 隼人 |
修士 | F中心におけるフェムト秒緩和過程の発光分光による研究 | 津村 武男 |
1999年度 | ||
博士 | Eu3+含有結晶における不均一広がりの光-rf二重共鳴による研究 | 山口 誠 |
1998年度 | ||
修士 | Time Resolved Raman Scattering In High Temperature Superconductors | Lina Machtoub |
修士 | 共鳴領域におけるSiCのラマンスペクトルの研究 | 富田 卓朗 |
1997年度 | ||
博士 | InAsにおける光励起非平衡キャリアの超高速ダイナミクス | 南晴 宏之 |
修士 | Femtosecond relaxation process of charge-transfer excitons in quasi-one-dimensional halogen-bridged platinum complex | 冨本 慎一 |
修士 | Bi-Pb合金におけるコヒーレントフォノン | 上岡 隼人 |
1996年度 | ||
博士 | ガラス中ゲルマニウム微粒子の光学的性質 | 齊藤 晶 |
博士 | Dynamics of photoexcited electrons in germanium studied by electronic Raman spectroscopy | 大竹 秀幸 |
修士 | SixGe1-xにおける光励起キャリアの電子ラマン散乱 | 丸山 将一 |
修士 | 光-高周波二重共鳴によるEu3+:YAlO3の研究 | 山口 誠 |
1995年度 | ||
博士 | Pr3+含有Y2O3系結晶におけるホール・バーニング分光 | 奥野 剛史 |
修士 | GaAsにおけるピコ秒時間分解ラマン散乱 | 西田 征男 |
修士 | 光-高周波二重共鳴によるEu3+:YAlO3の研究 | 南晴 宏之 |
1994年度 | ||
修士 | Pr3+含有酸化物ガラスにおける永続的ホール・バーニングの組成依存性 | 雙木 満 |
1993年度 | ||
修士 | Dynamics of photoexcited electrons in Germanium | 大竹 秀幸 |
1992年度 | ||
修士 | Y2O3・ZrO2:Pr3+系における永続的ホールバーニングと光学的位相緩和 | 奥野 剛史 |